「あ、今の判断、偏ってなかったかな?」
ITコンサルタントとして、様々な企業・部署・立場の方々と関わる中で、こんな風に自分の言動を振り返ることが増えました。
以前は気づかなかった「無意識の偏見」が、実は日々の判断や言動に影響を与えていることに気づいてから、意識的に軽減する努力を続けています。
今回は、働き方・効率化シリーズとして、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)について、ITコンサルとしての実務経験を踏まえながら、職場での具体例と対策をご紹介します。
なぜアンコンシャスバイアスを意識するようになったのか
様々な人と関わる仕事だからこそ
ITコンサルタントとして働く中で、私は日々、様々な立場の方々と関わります。
- 20代の若手エンジニアから、60代のベテラン役員まで
- IT部門だけでなく、営業、マーケティング、経理、人事など多様な部署
- 男性・女性、正社員・契約社員、国籍も様々
これだけ多様な人々と協働する中で、気づいたことがあります。
「自分の当たり前」が、相手の「当たり前」とは限らない
気づきのきっかけ
数年前、新規プロジェクトにアサインするメンバーを検討していた時のことです。
「このプロジェクトは海外出張が多いから、小さいお子さんがいる〇〇さんは外した方がいいかな」
そう考えて、別のメンバーを候補に挙げました。
しかし、定期的に行っている1on1の中で、その方からこう言われました。
「実は海外案件に興味があるんです。他のメンバーの方もやられているような海外プロジェクト、私もチャレンジしてみたいと思っていて」
その時、ハッとしました。
「子育て中=海外出張は難しい」という無意識の思い込みが、本人の希望を確認する前に選択肢を奪っていたのです。
この経験をきっかけに、自分の中にある「無意識の偏見」を意識するようになりました。
アンコンシャスバイアスとは何か?
定義と基本概念
アンコンシャスバイアス(Unconscious Bias)とは、「無意識の偏見・思い込み」のことです。
過去の経験や知識・価値観から、他者に偏った判断をしてしまう心理現象
誰もが持っているものであり、完全になくすことは難しいとされています。
「バイアス」と「アンコンシャスバイアス」の関係
まず、バイアス全体の構造を理解しておきましょう。
バイアス(偏見・先入観)には大きく2種類あります:
| 種類 | 説明 | 特徴 |
|---|---|---|
| 意識的なバイアス | 自分で「偏見を持っている」と自覚している | ・意図的な差別 ・自覚があるため対処しやすい |
| 無意識のバイアス (アンコンシャスバイアス) | 自分では気づいていない偏見・思い込み | ・無意識のため気づきにくい ・悪意はないが影響が大きい ・誰にでもある |
本記事で扱うのは、この「無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)」です。
なぜアンコンシャスバイアスが問題なのか?
「無意識」だからこそ、厄介なのです。
- ✅ 自分では気づかない
- ✅ 悪意がないため指摘されにくい
- ✅ 「良かれと思って」の行動が相手を傷つける
- ✅ 組織全体に広がりやすい
例えば:
- 「女性に力仕事は可哀想」→ 本人は配慮のつもりでも、機会を奪っている
- 「若手の意見は経験不足」→ 年齢で判断し、内容を吟味していない
このように、善意や常識だと思っている判断が、実は無意識の偏見に基づいていることがあるのです。
なぜアンコンシャスバイアスが生まれるのか?
アンコンシャスバイアスが生まれる主な理由は3つです。
| 理由 | 説明 |
|---|---|
| 自分を守るため | 過去の経験から「こうすれば安全」という判断を自動化 |
| 常識や習慣にとらわれている | 育った環境や社会の「当たり前」を疑わない |
| 情報処理の効率化 | 脳が膨大な情報を処理するための「ショートカット」 |
つまり、アンコンシャスバイアスは人間が効率的に判断するための「脳の仕組み」なのです。
代表的なアンコンシャスバイアスの種類
職場でよく見られるアンコンシャスバイアスを紹介します。
| 種類 | 説明 | 具体例 |
|---|---|---|
| ステレオタイプバイアス | 性別・年齢・職業などの属性で判断 | 「女性なら事務作業が得意」 「若手はITに詳しい」 |
| 確証バイアス | 自分の考えを裏付ける情報だけを集める | 「やっぱりこの案は正しかった」と 都合の良い意見だけ採用 |
| ハロー効果 | 一つの優れた点で全体を評価 | 「東大卒だから仕事もできる」 「有名企業出身だから優秀」 |
| 正常性バイアス | 異常な状況を「大したことない」と楽観視 | 「このミスは大したことない」 「納期遅れでも何とかなる」 |
| 集団同調性バイアス | 周囲に合わせた行動をとる | 「皆がそう言っているから」 「反対意見を言いづらい」 |
| アインシュテルング効果 | 過去の成功体験に固執する | 「前回うまくいったから 今回も同じ方法で」 |
| 権威バイアス | 地位や肩書きで判断する | 「部長が言うから正しい」 「ベテランの意見に従うべき」 |
職場で起きるアンコンシャスバイアスの具体例
実際の職場で起こりやすいアンコンシャスバイアスの例を紹介します。
①採用・人事評価での例
例1: 採用面接での判断
| バイアスのある判断 | 本来の判断 |
|---|---|
| 「この候補者、見た目が爽やかだから印象が良い」 | スキル・経験・実績を客観的に評価 |
| 「前職が有名企業だから優秀だろう」 | 具体的な業務内容と成果を確認 |
例2: 人事評価での判断
| バイアスのある判断 | 本来の判断 |
|---|---|
| 「いつも遅くまで残業しているから頑張っている」 | 成果と効率性で評価 |
| 「育休明けだから大きな仕事は任せられない」 | 本人の希望と能力を確認 |
②業務配分での例
例3: タスクの振り分け
| バイアスのある判断 | 本来の判断 |
|---|---|
| 「体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀想」 | 本人の希望とスキルを確認 |
| 「お茶出しや受付は女性の仕事」 | 業務内容と適性で判断 |
| 「若手だからIT作業は得意だろう」 | 実際のスキルレベルを確認 |
③コミュニケーションでの例
例4: 会議での発言
| バイアスのある言動 | 望ましい言動 |
|---|---|
| 「〇〇さん(女性)、議事録お願いできる?」 | 持ち回り制または立候補制 |
| 「〇〇さん(若手)は、経験的にまだ難しいかな」 | 意見の内容を吟味して判断 |
④キャリア形成での例
例5: 育成・配置での判断
| バイアスのある判断 | 本来の判断 |
|---|---|
| 「既婚女性だから転勤は難しいだろう」 | 本人の希望を確認 |
| 「子育て中だから管理職は無理」 | 本人のキャリアプランを確認 |
| 「ベテランだから新しいことは覚えられない」 | 学習意欲とスキル習得能力を確認 |
アンコンシャスバイアスが職場に与える影響
アンコンシャスバイアスを放置すると、職場に様々な悪影響を及ぼします。
①人間関係の悪化
影響:
- 偏見に基づいた言動で、相手を傷つける
- 「自分は正当に評価されていない」という不満が蓄積
- チーム内の信頼関係が損なわれる
具体例:
- 「女性だから〇〇」という発言で、女性社員のモチベーション低下
- 「若手の意見は聞かない」という態度で、若手の発言が減る
②社員のモチベーション・パフォーマンスの低下
影響:
- 不公平な評価で、努力する意欲が失われる
- 能力を発揮する機会が奪われる
- 離職率の増加
具体例:
- 育休明けの社員に「簡単な仕事」しか任せず、スキルが活かせない
- 「残業=頑張っている」という評価で、効率的に働く社員が評価されない
③ビジネス機会の損失
影響:
- 多様な視点が活かされず、新しいアイデアが生まれない
- 特定の顧客層のニーズを見落とす
- 市場の変化に対応できない
具体例:
- 「高齢者はITが苦手」という思い込みで、シニア向けサービスの開発が遅れる
- 「女性向け商品は女性が企画すべき」という固定観念で、男性視点の新提案が出ない
④ハラスメントの温床
影響:
- 偏見に基づいた言動がハラスメントとして認識される
- コンプライアンス違反のリスク
- 企業イメージの悪化
具体例:
- 「男性なら残業は当然」という発言がパワハラに
- 「女性なら結婚するでしょ」という発言がセクハラに
アンコンシャスバイアスを軽減するための対策
アンコンシャスバイアスは完全になくすことは難しいですが、軽減する努力は可能です。
①「気づこうとする」習慣をつける
具体的な方法:
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 自分の言動を振り返る | 「今の判断、偏ってなかった?」と問いかける |
| 「べき」「普通は」に注意 | 「男性なら〇〇すべき」「普通は〇〇するもの」という言葉に敏感になる |
| 違和感を大切にする | 「何か引っかかる」という感覚を無視しない |
私の実践例:
- 会議後に「自分の発言で誰かを決めつけてなかったか?」と振り返る
- 「普通は〇〇」と言いそうになったら、「本当にそうか?」と立ち止まる
②「決めつけない」を徹底する
具体的な方法:
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 相手に確認する | 「〇〇さんは△△だろう」ではなく、「〇〇さん、△△ですか?」と聞く |
| 多様な選択肢を提示 | 「Aしかない」ではなく、「A・B・Cどれがいい?」と選択肢を増やす |
| ステレオタイプを疑う | 「女性だから」「若手だから」という前提を疑う |
私の実践例:
- タスクを依頼する前に「この業務、興味ありますか?」と必ず確認
- 「〇〇さんなら得意だろう」ではなく、「〇〇さん、これ得意ですか?」と聞く
③「対話を大切にする」
具体的な方法:
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 相手の話を最後まで聞く | 途中で「こういうことでしょ?」と決めつけない |
| フィードバックをもらう | 「私の判断、偏ってませんでしたか?」と聞く |
| 多様な意見を歓迎する | 「そういう見方もあるんだ」と受け入れる姿勢 |
私の実践例:
- プロジェクトメンバーに「私の判断、何か気になる点ありますか?」と定期的に確認
- 「こうすべき」ではなく、「どう思いますか?」とオープンな質問を心がける
④「メタ認知」を鍛える
メタ認知とは:
自分の思考や行動を客観的に観察・認識する能力
具体的な方法:
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| セルフチェックシート | 定期的に「偏見チェックリスト」で自己診断 |
| 第三者の視点を取り入れる | 「他の人ならどう判断するか?」と考える |
| 記録をつける | 「今日の判断で気になったこと」を日記に書く |
私の実践例:
- 週1回、「今週の判断振り返りシート」を記入
- 判断に迷ったら、「客観的に見てどうか?」と一呼吸置く
⑤「多様性に触れる機会」を増やす
具体的な方法:
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 様々な立場の人と話す | 年齢・性別・職種が異なる人との交流を増やす |
| 多様な情報源に触れる | 自分と違う視点の記事・本を読む |
| 異なる文化を学ぶ | 他国の働き方や価値観を知る |
私の実践例:
- プロジェクトが始まる際にメンバーの「大切にしている価値観」を確認
- 意識的に「自分と違う意見の記事」を読むようにする
組織としてのアンコンシャスバイアス対策
個人の努力だけでなく、組織としての取り組みも重要です。
①研修・トレーニングの実施
効果的な研修の進め方:
- 「知る」: アンコンシャスバイアスの定義と種類を学ぶ
- 「気づく」: ワークショップで自分のバイアスに気づく
- 「考える」: 職場での影響を具体的に考える
- 「対処する」: 軽減するための行動計画を立てる
②評価制度の見直し
具体的な施策:
| 施策 | 説明 |
|---|---|
| 複数人での評価 | 一人の判断に偏らないよう、複数人で評価 |
| 客観的な評価基準 | 「頑張っている」ではなく、「成果・行動」で評価 |
| ブラインド評価の導入 | 性別・年齢などの情報を伏せて評価 |
③多様性を尊重する文化づくり
具体的な施策:
| 施策 | 説明 |
|---|---|
| 心理的安全性の確保 | 誰でも意見を言いやすい雰囲気づくり |
| 多様な働き方の容認 | リモートワーク、時短勤務など柔軟な働き方 |
| ロールモデルの可視化 | 多様な属性のリーダーを育成・紹介 |
アンコンシャスバイアスとうまく付き合うために
完璧を目指さない
アンコンシャスバイアスは誰にでもあるものです。
大切なのは:
- ❌ 「バイアスをゼロにする」ことではなく
- ✅ 「バイアスがあることを認識し、軽減する努力を続ける」こと
「気づき」を共有する
一人で完璧に対処しようとするのではなく、チームで「気づき」を共有することが大切です。
具体例:
- 「今の判断、ちょっと偏ってませんでした?」とフィードバックし合える関係
- 「こういう視点もあるかも」と提案し合える雰囲気
継続的な学びと改善
アンコンシャスバイアスの軽減は、一度学べば終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。
継続のコツ:
- 定期的に振り返りの時間を設ける(週1回、月1回など)
- チームで「今月のバイアス気づき」を共有する
- 新しい知識を学び続ける(書籍、記事、研修など)
まとめ
アンコンシャスバイアスと向き合う意義
様々な人と関わる仕事をする中で、アンコンシャスバイアスの存在を認識し、軽減に努めることは、
- ✅ 公平で風通しの良い職場づくりにつながる
- ✅ 多様な人材が活躍できる環境を生み出す
- ✅ 自分自身の視野を広げ、判断の質を高める
という大きな意義があります。
今日からできる3つのアクション
もしあなたが「アンコンシャスバイアスを意識したい」と思っているなら、今日からできることがあります。
- 自分の言動を振り返る: 「今の判断、偏ってなかった?」と1日1回問いかける
- 「べき」「普通は」を疑う: この言葉が出たら、一旦立ち止まる
- 相手に確認する習慣: 「〇〇だろう」ではなく、「〇〇ですか?」と聞く
小さな一歩の積み重ねが、より良い職場環境と、自分自身の成長につながります。
一緒に、誰もが活躍できる職場を作っていきましょう!


コメント