「この数字、本当に正しいのか?」
クライアントのプレゼン資料を見ながら、私はそう疑問に思いました。「業界の市場規模が年々縮小している」というグラフが示されていたのですが、どこか違和感がある。
データを掘り下げてみると、実は特定セグメントは成長していたのです。「全体が縮小している」という思い込みが、成長機会を見逃していました。
こうした経験から、「データは見ているつもりでも、自分の思い込みに都合の良い情報だけを拾っているのでは?」という疑問を持つようになりました。
その答えを教えてくれたのが、今回ご紹介する『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』です。
書評・学習記録シリーズとして、コンサル業務や日常の意思決定に活きている「データで世界を見る習慣」について、実践体験とともにご紹介します。
なぜ「ファクトフルネス」を読んだのか
「正しいデータ」を見ているはずなのに…
コンサルタントとして働き始めた頃、私はこんな壁にぶつかっていました。
データは見ているのに、なぜか判断を誤る。
- クライアントの「うちの業界は厳しい」という前提を、そのまま受け入れてしまう
- ニュースで「○○が増加」と聞くと、検証せずに提案に組み込む
- 成功事例ばかり注目し、失敗データを軽視する
データ分析の手法は学んでいたはずなのに、実際には自分の思い込みに都合の良い数字だけを拾っていることに気づいたのです。
上司からの一言
ある日、提案が通らなかったプロジェクトの振り返りで、上司からこう言われました。
「データは正しいけど、前提が間違ってるよね。『市場が縮小している』って、本当にそうなの?」
その言葉がきっかけで、データを疑う前に「自分の思い込み」を疑う必要性を実感しました。
そして数年後に出会ったのが、『ファクトフルネス』でした。
この本が新卒の頃に出版されていて読むことができていたら、あの頃の自分も少しは違ったのかな?と思う名著です。
書籍詳細情報
基本情報
- 書籍名:FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 著者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
- 価格:1,980円(税込)
- ページ数:400ページ
- 出版社:日経BP
- 出版年:2019年1月
著者について
ハンス・ロスリング(1948-2017)は、スウェーデンの医師・公衆衛生学者・統計学者。国境なき医師団のスウェーデン支部創設者の一人であり、カロリンスカ研究所教授を務めました。
TEDトークでのプレゼンテーションは累計3,500万回以上再生され、「データを動かすプレゼンの第一人者」として世界的に知られています。本書は彼の遺作となりました。
業界での評価
- 世界累計100万部超(日本が約4分の1を占める)
- 2020年上半期ビジネス書ランキング1位
- 「思い込みを克服するバイブル」として各界で高評価
「ファクトフルネス」の核心メッセージ
本書の最も重要なメッセージは、私たちは10の本能によってデータを歪めて認識しているという事実です。
10の本能(思い込み)とは
人間が無意識に陥る「10の本能」を、本書は明確に整理しています。
| 本能 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| ①分断本能 | 世界を「先進国vs途上国」のように二分して考える | 「世界は金持ちと貧乏人に分かれている」 |
| ②ネガティブ本能 | 悪いニュースに注目し、世界は悪化していると思う | 「犯罪は増加している」(実際は減少) |
| ③直線本能 | グラフが直線的に伸び続けると思い込む | 「人口爆発は止まらない」(実際はS字カーブ) |
| ④恐怖本能 | 危険でないことを恐ろしいと考える | 飛行機事故より自動車事故のリスクが高い |
| ⑤過大視本能 | 目の前の数字を大きく見積もる | 一つの事例を全体であるかのように扱う |
| ⑥パターン化本能 | 一つのグループの特徴を全体に当てはめる | 「Z世代はタイパ重視」→全員がそうではない |
| ⑦宿命本能 | 物事は変わらないと思い込む | 「文化や宗教は固定的」(実際は変化する) |
| ⑧単純化本能 | 複雑な問題を一つの原因で説明しようとする | 「貧困の原因は教育不足だけ」 |
| ⑨犯人捜し本能 | 誰かを責めれば問題が解決すると思う | 「政治家が悪い」で思考停止 |
| ⑩焦り本能 | 今すぐ決断しないと手遅れだと思う | 不十分なデータで拙速に判断 |
「4つの所得レベル」で世界を見る
本書が提唱する重要な視点が、「4つの所得レベル」での世界の見方です。
| レベル | 一日あたり所得 | 生活の特徴 | 世界人口比率 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | $2未満 | 裸足、食事は不安定 | 約10億人(減少中) |
| レベル2 | $2〜$8 | 自転車、安定した食事 | 約30億人 |
| レベル3 | $8〜$32 | バイク、水道・電気 | 約20億人(増加中) |
| レベル4 | $32以上 | 車、高等教育 | 約10億人 |
重要なのは、世界の大半は「レベル2〜3」に移行しつつあり、「途上国」という一括りでは語れないという事実です。
実践して変わった3つのこと
①データを疑う前に「自分の思い込み」を疑うようになった
【Before】
クライアントから「業界の市場規模が縮小している」と聞くと、そのまま前提として受け入れていました。
【After】
まず「どの本能が働いているか?」を考えるようになりました。
実例:製造業クライアントのケース
- クライアント:「国内市場は縮小し続けている(ネガティブ本能)」
- 私:データを確認→実は特定セグメントは成長していた
- 結果:そのセグメントへの戦略転換を提案し、売上20%増を達成
この習慣は、以前紹介した「嫌われる勇気」で学んだ「課題の分離」とも相性が良く、「相手の思い込みは相手の課題、私の課題は事実を示すこと」と割り切れるようになりました。
②「数字の背景」を確認する習慣がついた
【Before】
提案資料で「前年比120%成長」という数字を見ると、「成長している」と素直に受け取っていました。
【After】
「何と比較して? 母数は? 継続性は?」と背景を確認するようになりました。
実例:EC事業の提案
- 提案:「競合A社は前年比150%成長!」
- 私:母数を確認→実は前年がキャンペーン失敗で極端に低かった
- 正しい判断:実質的な成長率は業界平均並みだった
「過大視本能」を意識することで、数字に騙されない判断ができるようになりました。
③ニュースやSNSの情報に冷静になれた
【Before】
「日本の治安が悪化している」「子どもが危険にさらされている」といったニュースを見ると、すぐに不安になっていました。
【After】
「恐怖本能が働いていないか? 実際のデータは?」と立ち止まるようになりました。
実例:子育ての不安
- ニュース:「子どもの犯罪被害が増加」
- データ確認:実際は減少傾向(報道量が増えただけ)
- 結果:過度な制限をせず、子どもの自主性を尊重する育児方針を維持
「ファクトフルネス」の優れた点
①圧倒的なデータの説得力
本書は、WHO、世界銀行、国連などの公的データを基にした、事実ベースの議論を展開しています。
印象的なデータ例
- 極度の貧困率:1966年50% → 2017年9%(劇的に改善)
- 世界の平均寿命:1800年31歳 → 2017年72歳
- 識字率:1800年10% → 2016年86%
「世界は悪化している」という思い込みを、データで覆す説得力があります。
②ストーリーで記憶に残る
著者ハンス・ロスリングの医師としての経験談が随所に盛り込まれ、統計書でありながら物語として読める構成になっています。
印象的なエピソード
- アフリカでの医療活動中、現地の伝統医療と西洋医療の対立を経験
- 「単純化本能」に陥らず、両者の良い点を組み合わせる重要性を学ぶ
こうしたストーリーが、抽象的な「本能」の概念を具体的にイメージさせてくれます。
気になった点
①実践方法がもう少し欲しかった
本書は「10の本能」を知ることには優れていますが、日常でどう訓練するかの具体例がやや少ない印象です。
改善案
- 毎朝ニュースを見る際に「どの本能が刺激されているか?」をメモする
- 週次で「今週、思い込みで判断したこと」を振り返る
こうした自分なりの実践習慣を作ることで、本書の効果を最大化できます。
②データの「裏側」への言及が限定的
本書はデータの重要性を説く一方で、「データ自体のバイアス」や「統計の罠」についての言及はやや限定的です。
例
- サンプルの偏り
- 因果関係と相関関係の混同
- データの収集方法の違い
補完として、統計リテラシーを高める他の書籍と併読するとより効果的です。
他の類書との比較
| 書籍名 | 著者 | 特徴 | ファクトフルネスとの違い |
|---|---|---|---|
| 「FACTFULNESS」 | ハンス・ロスリング | 世界データで思い込みを覆す | (本書) |
| 「ファスト&スロー」 | ダニエル・カーネマン | 認知バイアス全般を学術的に解説 | より学術的、心理学寄り |
| 「予想どおりに不合理」 | ダン・アリエリー | 行動経済学の視点で人間の不合理性を解説 | 個人の意思決定に焦点 |
| 「データの見えざる手」 | 矢野和男 | ビッグデータ解析の実務への応用 | テクノロジー・AI寄り |
ファクトフルネスの強みは、「世界規模のデータ」×「実生活での思い込み」を結びつけた点です。グローバルな視点を持ちたいビジネスパーソンに最適です。
★総合評価
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 実用性 | ★★★★★ | コンサル業務で即活用できる視点が満載 |
| データの説得力 | ★★★★★ | WHO、世銀などの公的データに基づく圧倒的な信頼性 |
| 読みやすさ | ★★★★★ | 400ページだが、ストーリー形式で一気読みできる |
| 網羅性 | ★★★★☆ | 10の本能は網羅的だが、統計手法自体の解説は限定的 |
| コストパフォーマンス | ★★★★☆ | 約2,000円で一生使える思考法が学べるのは高コスパ |
| 長期的価値 | ★★★★★ | 何度も読み返せる「座右の書」になる |
総合評価:★★★★☆(4.7/5.0)
データで世界を見る習慣を身につけたい全ビジネスパーソンに推奨します。
こんな人におすすめ&おすすめしない
こんな人に強くおすすめ
✅ コンサルタント・経営企画・マネージャー職の方
- データに基づく意思決定を行う立場の方
✅ 「なんとなく」で判断していることに違和感がある方
- 論理的思考を鍛えたい方
✅ ニュースやSNSの情報に振り回されがちな方
- 冷静な判断力を身につけたい方
✅ グローバルな視点を持ちたい方
- 世界の実態を正しく理解したい方
こんな人にはおすすめしない
❌ すでに統計リテラシーが高い方
- 本書の内容は基礎的に感じるかもしれません
❌ 具体的なビジネススキルのハウツーを求める方
- 本書は「考え方」の本であり、技術書ではありません
❌ データ分析の手法を学びたい方
- 統計手法自体の解説書ではありません
まとめ
この本の最大の価値
『ファクトフルネス』の最大の価値は、「思い込み」を排除し、データで世界を正しく見る習慣を身につけるための必読書であることです。
コンサルタントとして、またビジネスパーソンとして、事実ベースで冷静に判断する土台が築けたことが、この本から得た最大の財産です。
個人的な体験総括
特に以下の3つの習慣は、仕事でもプライベートでも役立っています。
- データを見る前に「自分の思い込み」を疑う
- 数字の背景(母数・比較対象・継続性)を確認する
- ニュースやSNSの情報に「どの本能が刺激されているか?」を問う
世界は思っているより良くなっている。でも、まだ多くの問題がある。
その両方を理解することが、本当の「ファクトフルネス」なのだと、この本は教えてくれました。
もしあなたが「なんとなく」で判断することに違和感を感じているなら、この本は人生を変える一冊になるはずです。
「データで世界を見る習慣」を、今日から始めましょう!


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