「教えられる上司」は多い。でも「引き出せる上司」は少ない。
あなたの周りにも、こんな上司はいませんか?
「答えを教えることは得意。でも、部下に考えさせるのが苦手」
ITコンサルとして多くのプロジェクトを経験し、様々な上司・先輩のマネジメントスタイルを見てきた私が強く感じていることがあります。
ティーチングができる人は多い。でも、コーチングができている人は圧倒的に少ない。
そして、さらに問題なのは「ティーチングが適切な場面でティーチングをしているか」という点です。「何でも教えてしまう上司」「いつまでもティーチングから抜け出せない上司」が、部下の成長を知らず知らずのうちに妨げているケースを何度も見てきました。
この記事では、コーチングとティーチングの違い・使い分け、そして特に重要なオートクラインの活用方法を、実務経験をもとに解説します。
コーチングとティーチングの違い
まず基本的な違いを整理しましょう。
ティーチングとは
「答えを持っている指導者が、答えを教える」指導方法。
- 指導者 → 対象者への一方向コミュニケーション
- 正解・手順・知識が明確な場合に有効
- 「上下の関係性」で行われる
- 短期間で知識・スキルを習得させやすい
ティーチングの例:
- 「この書類の作り方はこうです。まず○○して、次に△△してください」
- 「システムの操作方法を説明します」
- 「トラブル発生時の対応手順はこの通りです」
コーチングとは
「答えは相手の中にある」という前提で、対話を通じて引き出す指導方法。
- 指導者 ↔ 対象者の双方向コミュニケーション
- 明確な正解がない場合、自律的思考力を育てたい場合に有効
- 「対等・並走する関係性」で行われる
- 長期的な自発性・問題解決能力の向上につながる
コーチングの例:
- 「今回のプロジェクトで一番難しかった点は何だと思う?」
- 「もし同じ状況になったら、次はどうしたい?」
- 「目標達成のために、自分に何ができると思う?」
一目で分かる比較表
| 項目 | ティーチング | コーチング |
|---|---|---|
| コミュニケーション | 一方向(上→下) | 双方向(対等) |
| 答えの場所 | 指導者が持っている | 対象者の中にある |
| 目的 | 知識・技術の習得 | 自律性・思考力の育成 |
| 向いている対象 | 新人・未経験者 | 中堅・ベテラン |
| 向いている場面 | 答えが決まっている | 答えが決まっていない |
| 効果 | 短期的・即効性あり | 長期的・継続的成長 |
| 関係性 | 上下 | 横並び・伴走 |
なぜ「ティーチングできる人は多いが、コーチングできる人は少ない」のか
ティーチングは「やってきたことの再現」
ティーチングは、自分がかつて教わってきたことを再現するだけでできます。
- 新人時代に先輩から教わった方法をそのまま伝える
- マニュアル・手順書通りに説明する
- 自分の経験・知識をアウトプットする
このため、経験を積んだ社員であれば、ある程度は誰でもできます。
コーチングは「自分が持っていない答えを引き出すスキル」
一方、コーチングは全く異なるスキルが必要です。
- 答えを教えない(自分が答えを知っていても)
- 質問で思考を促す(良い質問を設計する能力)
- 傾聴する(話を最後まで聞く忍耐)
- 沈黙を恐れない(考える時間を与える)
- ジャッジしない(相手の答えを否定しない)
これらは意識して訓練しないと身につかないスキルです。
「教えたくなる」本能がコーチングを妨げる
特にコンサルや技術職出身の方に多いのですが、自分が答えを知っていると、ついつい教えてしまいたくなります。
- 「こうすればいいのに」とすぐ口を出してしまう
- 部下が考えている途中なのに、答えを言ってしまう
- 効率を求めるあまり、コーチングを省略してしまう
この「教えたくなる本能」がコーチングの最大の障壁です。
キャリアステージ別:ティーチングとコーチングの使い分け
大原則:年次ではなく「スキルと経験」で判断する。
ただし、実務上はキャリアステージが目安になることが多いので、以下を参考にしてください。
新卒・若手(入社〜3年目程度)
ティーチングをメインに、コーチングをサブで活用。
なぜティーチングが多め?
- 業務知識・スキルがゼロに近い状態からスタート
- 「何が分からないか分からない」段階
- 手順・ルール・知識を先に習得する必要がある
- 判断材料がないと、コーチングで考えさせても空振りになる
でもコーチングも必要
- 振り返り場面: 「今日の業務で良かった点・改善点は?」
- 目標設定場面: 「3ヶ月後にどうなりたい?」
- 選択場面: 「2つのやり方があるけど、どちらが良いと思う?」
コーチングの本などでは 「新入社員に対してはティーチングが効果的ですが、若手・中堅・ベテランに対しても一方的なティーチングが中心になると、部下の成長を妨げる」と指摘されています。
中堅社員(4〜10年目程度)
コーチングをメインに、ティーチングをサブで活用。
なぜコーチングが多め?
- 基礎知識・スキルはすでに身についている
- 答えを自分で考える力を養う時期
- 自律的に動ける人材に育てることが目標
- ティーチングばかりでは「指示待ち」になってしまう
ティーチングを使う場面(例外)
- 新しい制度・システムが導入された時
- 法令・コンプライアンスに関する知識
- 緊急性が高く、即答が必要な場面
ベテラン社員(10年目以上・管理職)
原則コーチングのみ。
なぜコーチングのみ?
- 豊富な経験・知識を持っている
- 自律的な思考・判断が期待される
- ティーチングでは「上から目線」と感じられる可能性
- 本人の内発的動機を引き出すことが最重要
ポイント: 管理職に対してティーチングを多用すると「なぜこんな当たり前のことを教えられているんだ」と不満につながることも。
※もちろん、初めての領域にチャレンジする際などティーチングが適切な場面も0ではないので、状況によって使い分けが必要です。
【重要】年次ではなくスキルで判断する
実際の現場では、以下のようなケースも発生します。
- 中途入社の即戦力人材 → 経験豊富でも、社内制度はティーチングが必要
- 若手でも特定分野のエキスパート → その分野ではコーチングが有効
- ベテランでも新しい分野に挑戦 → 基礎知識はティーチングが必要
「この人はこの業務に関してどのレベルか」を見極めることが大切です。
オートクラインを活かすコーチングを
コーチングの中で私が最も重要だと感じているのが、オートクライン効果の活用です。
オートクラインとは
「自分が話した言葉を自分で聞くことで、自分の潜在的な考えや欲求に気づく」現象。
「オートクライン効果とは、医学用語で『自己分泌』を意味する用語ですが、コーチングにおいては自分が話した内容を自分で聞き、自らの潜在的な欲求・考えに気づくこと」とされています。
なぜオートクラインが重要なのか
人は頭の中でぼんやりと思っていることを、言葉に出すことで初めて明確に認識できます。
例えば: 「なんとなく今の仕事がうまくいっていない気がする」
→ コーチが質問する
→ 「うまくいっていない原因は何だと思う?」
→ 部下が話す
→ 「…顧客とのコミュニケーションが足りていないかもしれません」
→ 話した瞬間に「あ、そういうことだったのか」と自分で気づく
この「自分で気づく」プロセスが、行動変容の最大の動力になります。
他人に教えられた気づきより、自分で言語化した気づきの方が、行動につながりやすいのです。
オートクラインを引き出す質問の例
振り返りを促す質問
- 「今回のプロジェクト、やってみてどうだった?」
- 「一番うまくいったと思う点は?」
- 「もし次にやるとしたら、何を変えたい?」
自己認識を深める質問
- 「今、一番気になっていることは何?」
- 「この状況をひと言で表すと?」
- 「今の自分に点数をつけるとしたら何点?」
行動を引き出す質問
- 「次の一週間で、何か一つやれることはある?」
- 「誰かのサポートがあれば、何ができそう?」
- 「理想の状態に近づくために、今日から何をする?」
コーチングでオートクラインを引き出すために大切なこと
1. 相手が話し終えるまで待つ
「沈黙=考えている時間」 だと理解する。
- 相手が考えて黙っている時に、すぐ口を出さない
- 「沈黙が怖い」と感じる上司は多いが、これがオートクラインの邪魔をする
- 少なくとも5〜10秒は待つ
2. 評価・判断を入れない
コーチングで最も大切なのは「ジャッジしないこと」。
- 「なるほど、それで?」「そう感じたんだね」と受け止める
- 「それは違う」「もっとこうすべきだ」はティーチングになってしまう
- 否定されると相手は話すことをやめてしまう
3. 相手の言葉を繰り返す(オウム返し)
繰り返すことで、相手は自分の言葉をもう一度聞ける。
- 部下:「なんか、やる気が出なくて…」
- 上司:「やる気が出ない、か。それはどんな感じ?」
→ 自分の言葉を繰り返されることで、オートクラインがさらに深まる
実務での具体的な使い分けシナリオ
シナリオ1:新人へのOJT
場面: 入社2ヶ月の新人が、顧客向け資料の作成を任された。
ティーチングが適切な場面(まず最初)
- 資料のフォーマット・ルールを説明する
- 過去の類似資料を見せながら説明する
- 「こういう構成が基本です」と伝える
コーチングを入れる場面(完成後)
- 「作ってみてどうだった?」
- 「自分でここが良くできたと思う点は?」
- 「次回改善したいと思う点は?」
→ ティーチングで基礎を作り、コーチングで振り返りを促す
シナリオ2:中堅社員との1on1
場面: 入社5年目の中堅社員との月次1on1。
コーチングをメインに
- 「今月、一番手応えを感じた仕事は?」
- 「逆に、もやもやしていることはある?」
- 「来月、特に力を入れたいことは?」
ティーチングを入れる場面(例外的に)
- 新しい制度変更の説明
- 法令・コンプライアンスの確認事項
- 「知らなかった」では困る重要情報
→ 基本はコーチングで自律性を育て、必要な情報だけティーチングで補う
シナリオ3:緊急トラブル発生時
場面: プロジェクト中に重大なシステム障害が発生。
この場面では迷わずティーチング
- 「まず○○に連絡。次に△△の手順で対処」
- 「これは後で振り返るから、今は指示通りに動いて」
- 緊急時にコーチングで「どうしたい?」と聞いている場合ではない
→ 緊急性・重要性が高い場面では、スキルレベルに関わらずティーチング
よくある「コーチング失敗パターン」
パターン1:質問攻めにする
「なぜ?」「どうする?」を連発すると、詰問になってしまう。
改善策:
- 質問の間隔を空ける
- 「なぜ」より「どうしたら」「どんな」の方が柔らかい
- 事実確認の質問と思考を促す質問を混ぜる
パターン2:コーチングでいつまでも教えない
「コーチングが大事」と思いすぎて、本当にティーチングが必要な場面でも教えない。
改善策:
- 「この人は本当に答えを持っているか?」を考える
- 持っていない場合は素直にティーチングに切り替える
- コーチングとティーチングの使い分けが肝心
パターン3:部下が答えを出したのに否定する
「そうじゃなくて、こうだよ」と言った瞬間に、コーチングが崩壊する。
改善策:
- 部下の答えを一度受け止める
- 「なるほど。その方法もいいね。他にはどんなやり方があると思う?」
- どうしても修正が必要なら、最後にティーチングで補足する
まとめ:「使い分け」こそが育成の核心
ティーチングは「土台作り」、コーチングは「自律性の育成」
土台がないところにコーチングをしても空振り。 土台があるのにティーチングを続けると指示待ちになる。
この認識が、育成上手な上司と育成下手な上司の最大の違いです。
オートクラインを大切にする理由
私がコーチングで最も大切にしているのは、「部下自身が言語化することで気づく瞬間を作ること」です。
こちらが答えを教えてもすぐ忘れる。でも、自分で話して気づいた答えは、行動につながります。
「沈黙を怖れず、待つ。」
これがコーチングの本質だと思っています。
今日からできる一歩
- 次の1on1で、いつもより一つ多く質問してみる
- 部下が話している間、10秒は口を挟まないと決める
- 「どうしたらいいと思う?」を口癖にする
一緒に、部下が自分で考えて動ける組織を作っていきましょう!

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