「来期の予算策定、よろしく」
年度末を控え、上司から昇格の打診と自部門の予算策定の依頼を受けた時、私は迷わず引き受けました。
自部門のPL(損益計算書)作成は2年前から担当していますが、今年も改めて実感したことがあります。
「簿記を勉強しておいて、本当に良かった」
コンサルとして働く私は、SE出身のITコンサルです。元々はシステム開発が中心で、会計知識を学ぶ機会はほとんどありませんでした。
しかし、当時の上司が簿記3級の勉強を勧めてくれたおかげで、今では経営会議やPL作成の場面で大きな差を感じています。
この記事では、年度末のPL作成や経営会議で実感した「簿記知識の実務価値」と、キャリアパスによる理解度の違い、そして「経営会議で恥をかかないために必要な知識」をご紹介します。
これは、以前執筆した「簿記を学ぶべき理由とは?ITコンサル×投資家パパの実体験」の実務編として、よりビジネスの現場に近い内容をお届けします。
全社員向けPL共有で気づいた「理解度の差」
四半期ごとの実績共有で見えた現実
当社では、四半期ごとに全社員に対して今期の売上などの実績がPLベースで共有されます。経営陣が丁寧に説明してくれるのですが、最近、意外とちゃんと理解していない人が多いことに気づきました。
会議後に同僚や部下と話していると、
- 「なんとなく分かったけど、細かい部分は…」
- 「売上は分かるけど、営業利益とか経常利益の違いって?」
- 「減価償却費って何?」
- 「限界利益って何?」
こんな声が聞こえてきます。
キャリアパスによる理解度の違い
興味深いのは、理解度にキャリアパスによる明確な傾向があることです。
新卒から戦略コンサル
- 新人研修で財務諸表分析を徹底的に叩き込まれる
- クライアントの経営課題に向き合う中で、自然と会計知識が身につく
- ほぼ全員がPLを深く理解して読めている印象
- 経営会議でも的確な質問や発言ができる
SE→ITコンサル(私もこのパターン)
- 技術領域が中心で、会計知識を学ぶ機会が少ない
- システム開発やインフラ構築では、PLを読む必要性が低い
- 「何となく読める」程度の人が多い
- 経営会議で話についていけないことも
これは能力の差ではなく、学ぶ機会の有無です。実際、コンサルティング業界では、戦略コンサルとITコンサルで求められる基礎スキルが異なります。戦略コンサルは経営戦略・財務分析が中心、ITコンサルは技術・システム構築が中心という構造的な違いがあるのです。
私自身、SE出身のITコンサルですが、上司に勧められて簿記を学んだことで、経営会議やPL作成の場面で「学んだ人」と「学んでいない人」の圧倒的な差を感じています。
「あなたは経営会議についていけますか?」診断
以下の用語を会議で聞いた時、即座に意味を説明できますか?
レベル1:基礎編(簿記3級レベル)
- 売上高・売上原価・売上総利益(粗利)
- 売上から原価を引いた利益。製品競争力を示す
- 売上原価
- 商品を作る・仕入れるのに直接かかった費用
- 販売費及び一般管理費(販管費)
- 営業活動・管理活動にかかる費用(人件費、広告費、家賃など)
- 原価ではないが、事業運営に必要な費用
- 営業利益・経常利益・純利益
- 営業利益 = 売上総利益 – 販管費(本業の儲け)
- 経常利益 = 営業利益 + 営業外損益(利息など含む)
- 純利益 = 経常利益 – 特別損益・税金(最終的な儲け)
レベル2:実務編(簿記2級レベル)
- 営業キャッシュフロー
- 本業で実際に得られた現金の流れ
- 損益分岐点
- 利益がゼロになる売上高。固定費÷(1-変動費率)
- EBITDA(イービットディーエー)
- 減価償却前の利益。企業の稼ぐ力を示す指標
- ROE・ROA
- 株主資本利益率・総資産利益率。資本効率を測る
レベル3:応用編(経営会議で飛び交う表現)
- 前年同期比・予算比
- 昨年同じ時期との比較、今年の予算との比較
- 部門別損益
- 各部門ごとの売上・費用・利益の内訳
- 着地見込み
- 今期末時点での最終的な業績予測
チェック結果:
- 10個以上: 経営会議で堂々と発言できるレベル
- 5-9個: 何となく理解できるが、細かい部分で不安
- 4個以下: 経営会議で話についていけない可能性大
PL作成・経営会議で簿記知識が活きた具体例
自部門のPL作成で必要だった知識
2年前から自部門の来期予算策定をしていますが、以下のような知識が必須でした。
1. 前年度との比較分析
- 前年同期比でどの費用が増減しているか
- その要因は何か(人件費増?外注費増?設備投資?採用費?)
- 来期はどう調整すべきか
簿記知識がなければ: 数字を並べるだけで、分析できない
簿記知識があれば: 「人件費が前年比+15%。新規採用3名の影響。来期も同水準を見込む」と説明できる
2. 固定費・変動費の切り分け
- 売上に関係なく発生する費用(人件費、家賃など)
- 売上に比例する費用(外注費、仕入れなど)
- この切り分けができないと、損益分岐点が分からない
簿記知識がなければ: すべての費用を一緒くたに扱う
簿記知識があれば: 「固定費○○万円、変動費率○%なので、損益分岐点は売上○○万円」と算出できる
経営会議で理解度の差を感じた瞬間
ケース1:「売上は伸びているのに営業利益が下がっている」
会議での発言: 「今期は売上が前年比+10%伸びているが、営業利益は前年比-5%。原因は外注費の増加。来期は内製化を進めて改善したい」
簿記知識がない人の反応: 「売上が伸びてるのになんで利益が減るの?」
簿記知識がある人の反応: 「なるほど、売上総利益率が下がっているんですね。外注費率が○%上昇したということですか?」
ケース2:「キャッシュフローが悪化している」
会議での発言: 「営業利益は黒字だが、営業キャッシュフローがマイナス。売掛金の回収遅延が原因」
簿記知識がない人の反応: 「利益が出てるのにお金がないってどういうこと?」
簿記知識がある人の反応: 「売掛金の回収サイトが長期化しているんですね。取引先との条件見直しが必要ですね」
ケース3:「原価率は変わらないのに営業利益が悪化」
会議での発言:
「今期の原価率は前年並みだが、営業利益率が3ポイント悪化。原因は販管費の増加、特に広告宣伝費が前年比+30%」
簿記知識がない人の反応:
「原価率が変わらないのになんで利益が減るの?」「販管費って何?」
簿記知識がある人の反応:
「なるほど、粗利は確保できているが販管費が膨らんでいるんですね。広告費対効果の検証が必要ですね」
ポイント:
- 原価: 商品を作る・仕入れるのに直接かかる費用
- 販管費: 営業・管理活動にかかる費用(人件費、家賃、広告費など)
- この2つの区別ができないと、「どこにムダがあるか」が分からない
「何となく読める」では通用しない理由
経営会議での発言ができない
シーン: 経営陣が「この部門の売上総利益率が低い理由は?」と質問
「何となく読める」人: 黙って聞いているだけ
「しっかり理解している」人: 「原価率が○%上昇しています。原因は○○です」と即答
予算策定で的確な判断ができない
シーン: 「来期、新規設備投資をするべきか?」
「何となく読める」人: 「予算があればやりたいです」(漠然)
「しっかり理解している」人: 「投資額○○万円、減価償却5年、年間○○万円の費用増。一方で外注費が年間○○万円削減できるため、3年で投資回収可能です」(具体的)
上司・経営陣からの信頼を得られない
上司の本音:
- 「この人に部門の予算を任せて大丈夫かな?」
- 「経営会議で的確な報告ができるかな?」
キャリアアップのボトルネック:
- 管理職への昇進条件に「予算管理能力」が含まれる企業は多い
- 簿記知識がないと、管理職として信頼されない
グロービスの調査によると、ビジネスパーソンが簿記を勉強するメリットとして、「利益という数字がどのようにしたら上がるのかが理解できる」「会社の業績とは何から測れるのかが理解できる」が挙げられています。
上司への感謝と2級取得への意欲
当時の上司が勧めてくれた簿記3級
20代の頃、当時の上司がこう言いました。
「簿記の知識くらいは身につけないとダメ」
正直、最初は「なんで簿記?」と思いました。SE出身の私にとって、会計は縁遠い世界でした。
しかし、上司の勧めに従って勉強を始めると、ビジネスの仕組みが見える化されていく感覚がありました。
- クライアントの経営課題が理解できるようになった
- 提案の説得力が増した
- 社内の予算会議で発言できるようになった
今では心から感謝しています。 あの時、上司が背中を押してくれなければ、今も「何となく読める」レベルで止まっていたかもしれません。
まだ2級は取得していないが…
実は、まだ簿記2級は取得していません。しかし、実務を通じて「2級レベルの知識が必要」と強く感じています。
簿記3級と2級の違い:
| 項目 | 簿記3級 | 簿記2級 |
|---|---|---|
| 対象 | 個人商店レベル | 株式会社レベル |
| 範囲 | 商業簿記のみ | 商業簿記+工業簿記(原価計算) |
| 実務レベル | 基礎理解 | 実務で通用するレベル |
| 学習時間 | 50-100時間 | 100-300時間 |
実務で「2級が必要」と感じた場面:
- 部門別損益の詳細分析(工業簿記の知識)
- 原価計算(製造原価、直接費・間接費の配賦)
- 限界利益(固定費・変動費を使った意思決定)
- 株式会社特有の会計処理(社債、株式など)
次は2級取得を目指して、さらに実務力を高めたいと思っています。
簿記は「資格」ではなく「ビジネスの共通言語」
資格取得が目的ではない
簿記の本質は、資格取得ではありません。
経営企画出版の記事によると、「簿記を理解することによって、企業の経理事務に必要な会計知識だけではなく、財務諸表を読む力、基礎的な経営管理や分析力が身につくとされています。
つまり、簿記はビジネスの共通言語なのです。
- 経営陣との会話
- 他部門との予算調整
- クライアントへの提案
- 投資判断
これらすべてに、簿記の知識が活きてきます。
経営会議で恥をかかないために、今から学ぼう
こんな人に簿記学習をおすすめします:
- SE→ITコンサルへキャリアチェンジした人
- 経営会議・予算会議に参加する機会がある人
- 管理職を目指している人
- クライアントの経営課題に向き合うコンサルタント
- 起業・独立を考えている人
学習方法:
- まずは簿記3級から: 基礎を固める(学習時間50-100時間)
- 実務で使いながら復習: 経営会議資料を読む、自社のPLを分析する
- 簿記2級へステップアップ: 実務で通用するレベルへ(学習時間100-300時間)
おすすめ書籍
簿記3級(まずはここから)
- 「スッキリわかる日商簿記3級」(TAC出版)
- イラストが豊富で初心者にも分かりやすい
- 私もこのシリーズで学習しました
簿記2級(実務で使うならこのレベル)
- 「スッキリわかる日商簿記2級 商業簿記」(TAC出版)
- 「スッキリわかる日商簿記2級 工業簿記」(TAC出版)
- 3級と同じシリーズで学習の連続性がある
簿記知識の総合評価
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 実務での有用性 | ★★★★★ | 経営会議・PL作成で必須。実務で直接活きる |
| 学習コスト | ★★★★☆ | 3級は50-100時間で取得可能。費用対効果高い |
| キャリアへの影響 | ★★★★★ | 管理職昇進・転職で有利。長期的価値大 |
| 汎用性 | ★★★★★ | どの業界・職種でも使える。一生モノのスキル |
| 学習難易度 | ★★★☆☆ | 3級は初心者でも取得可能。2級は応用必要 |
| 投資対効果 | ★★★★★ | 受験料数千円で一生使える知識。コスパ最高 |
合評価: ★★★★☆(4.5/5.0)
ビジネスパーソン必須の共通言語です。
まとめ:簿記知識がキャリアを変える
経営会議で堂々と発言できる自信
簿記を学んだことで、経営会議で堂々と発言できる自信がつきました。
- PLの数字を見て、即座に問題点を把握できる
- 経営陣の質問の意図を理解できる
- 的確な提案・報告ができる
2年前から自部門のPL作成を担当
2年前から自部門のPL作成を担当していますが、簿記知識がなければ絶対に務まらなかったと思います。
- 前年度との比較分析
- 固定費・変動費の切り分け
- 減価償却費の計算
- 部門別損益の管理
これらすべてに、簿記の知識が活きています。
上司への感謝と、次のステップへ
当時の上司が簿記の勉強を勧めてくれたことに、心から感謝しています。
次は簿記2級を取得して、さらに実務力を高めたい。そして、将来的には経営層といったキャリアパスも視野に入れています。
一緒に、経営会議で恥をかかない知識を身につけていきましょう!

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