「今月の売上は先月比110%でした!」
マーケティング部の改革を依頼された私が、状況把握のために参加した役職者への報告会での一場面。担当者が嬉しそうに報告する姿を見ながら、私は「あ、これはまずいな…」と直感しました。
報告書には確かに売上数字が並んでいる。でも、肝心なことが抜けているんです。なぜ110%になったのか、来月も同じ成果が出せるのか、全く分からない。
ITコンサルとして数十社のマーケティング支援をする中で、同じパターンの「危険な報告」を何度も見てきました。そして気づいたのは、仕事では当然やっていることを、なぜかプライベートでは全くやっていない自分がいることでした。
前回の記事では「構造化」の重要性をお話ししましたが、今回はその次のステップ。2児のパパとして、この「計画とチェックポイント」がどれほど人生に影響するか、正直にお話しします。
その報告書が「危険」な理由
売上110%という数字だけ見れば、確かに成功です。でも、本当に重要な情報が全て抜けていました。
本来あるべき報告:
- 施策: リスティング広告のキーワード追加
- 中間効果: 新規流入が20%増加、コンバージョン率が1.2%→1.4%に向上
- 最終結果: これらにより売上が110%達成
実際の報告:
- 売上が110%でした!(以上)
これでは「なぜ成功したのか」「来月も再現できるのか」「どこを改善すべきか」何も分からないんです。
もし来月、売上が90%に下がったとき、何をどう修正すればいいでしょう?答えは「分からない」。これが一番怖いことです。
「とりあえず頑張る」が失敗する3つの理由
この問題は、実は私たちの日常生活にも深く根ざしています。仕事では当然やっている「計画とチェックポイント」を、プライベートではなぜかやらない。
理由①:振り返りができない
仕事の場合: プロジェクトが失敗したとき、必ず振り返りをします。「何が原因だったか」「どこで判断を誤ったか」詳細に分析します。
プライベートの場合: ダイエットに失敗しても「意志が弱かった」で終わり。家計改善がうまくいかなくても「もっと節約しないと」という精神論。
なぜこれが問題か: 振り返りができないと、同じ失敗を繰り返します。「頑張ったけどダメだった」という漠然とした記憶しか残らず、次に活かせません。
理由②:途中での状況把握ができない
仕事の場合: プロジェクトには必ず中間チェックポイントがあります。「現在の進捗は?」「予定通り進んでいるか?」定期的に確認します。
プライベートの場合: ダイエットでは「体重が減った/増えた」でしか判断しない。家計改善では「今月は黒字/赤字」程度。
なぜこれが問題か: 状況が「絶好調」か「大ピンチ」の両極端でしか分からないため、手遅れになってから気づくパターンが多発します。
理由③:良い修正案が出てこない
仕事の場合: 「○○施策により△△の数値が改善し、□□の結果を得る」という構造化された計画があるため、うまくいかない時も「△△の部分を見直そう」という具体的な修正案が出せます。
プライベートの場合: 「とりあえず食べる量を減らそう」「とりあえず支出を抑えよう」という曖昧な計画のため、うまくいかない時の修正案が「もっと頑張る」という精神論になってしまいます。
なぜこれが問題か: 問題の本質が見えないため、的外れな努力を続けてしまい、結果として挫折しやすくなります。
仕事での「計画が甘い」失敗事例
私自身も、計画の甘さで痛い目を見た経験があります。
失敗事例:ECサイトリニューアルプロジェクト
当初の計画:
- 「売上を30%向上させる」
- 「ユーザビリティを改善する」
- 「スマホ対応を強化する」
- 「セグメント毎のマーケティング施策を実施する」
一見、しっかりした計画に見えますが、実は致命的な欠陥がありました。
6ヶ月後の現実:
- サイトは予定通り完成
- でも売上は5%しか向上せず
- クライアントから厳しいお叱り
何が問題だったか:
- 中間指標の設定なし: 売上30%向上の根拠となる「訪問者数×コンバージョン率×客単価」の内訳を設定していなかった
- チェックポイントの不備: 完成まで売上への影響を測定していなかった
- 修正タイミングの逸失: 問題に気づいた時には手遅れ
学んだこと: 「売上30%向上」ではなく「訪問者数を20%増加させ、コンバージョン率を1.5倍にして、結果として売上30%向上」という構造化された計画と、月次でのチェックポイントが必要でした。
プライベートでの「計画なし」失敗事例
失敗事例①:ダイエット計画
私の「計画」:
- とりあえず食べる量を減らそう
- 運動もした方がいいかな
- 3ヶ月で5kg痩せたい
3ヶ月後の現実:
- 体重は1kgしか減らず
- 途中で挫折感に襲われる
- 「意志が弱い」と自己嫌悪
仕事と同じ手法で再挑戦:
構造化された計画:
目標体重減少5kg = 摂取カロリー削減 + 消費カロリー増加
摂取カロリー削減 = 間食撤廃(-200kcal/日) + 夕食量20%減(-150kcal/日)
消費カロリー増加 = 週3回のジョギング(+300kcal/回)
月間目標: -1.5kg (1ヶ月目) → -1.5kg (2ヶ月目) → -2kg (3ヶ月目)
チェックポイント:
- 週次: 体重測定と食事記録確認
- 月次: 計画との乖離分析と修正案検討
結果: 6ヶ月で目標達成。何より「なぜうまくいったか」が明確なので、リバウンドしても修正方法が分かる。
失敗事例②:家計改善計画
最初の「計画」:
- 無駄遣いを減らそう
- 節約を心がけよう
- 月3万円浮かせたい
3ヶ月後の現実:
- 節約額は月5,000円程度
- どこをどう改善すればいいか分からない
- 家族から「ケチケチしないで」と不満
構造化された再挑戦:
支出分析:
月間支出30万円 = 固定費20万円 + 変動費10万円
固定費内訳: 住居費(10万) + 保険(3万) + 通信費(2万) + その他(5万)
変動費内訳: 食費(5万) + 交通費(2万) + 娯楽費(2万) + その他(1万)
改善計画:
- 通信費見直し: 格安SIMで月1万円削減
- 保険見直し: 不要特約解約で月8,000円削減
- 食費最適化: 外食頻度調整で月5,000円削減
チェックポイント:
- 週次: 家計簿確認
- 月次: 各項目の予算実績比較
結果: 4ヶ月で月2.3万円の削減達成。家族の協力も得られ、「我慢する節約」から「賢い節約」へ。
計画とチェックポイントの正しい作り方
ステップ1: 目標の構造化
悪い例:
- 売上を上げよう
- 痩せよう
- 節約しよう
良い例:
- 売上 = 訪問者数 × コンバージョン率 × 客単価
- 体重減少 = 摂取カロリー削減 + 消費カロリー増加
- 支出削減 = 固定費見直し + 変動費最適化
ステップ2: 中間指標の設定
仕事の例 – Webマーケティング:
- 最終目標: 売上20%向上
- 中間指標: 月間訪問者数、コンバージョン率、平均注文金額
- 先行指標: 広告クリック数、メルマガ開封率、SNSエンゲージメント
プライベートの例 – ダイエット:
- 最終目標: 3ヶ月で5kg減量
- 中間指標: 月間体重減少、体脂肪率、筋肉量
- 先行指標: 摂取カロリー、運動回数、歩数
ステップ3: チェックポイントの設計
チェック頻度の設計:
- 日次: 先行指標の確認(簡単にできるもの)
- 週次: 中間指標の測定と傾向分析
- 月次: 最終目標への進捗確認と計画修正
チェック項目の例:
| 頻度 | 仕事(マーケティング) | プライベート(ダイエット) |
|---|---|---|
| 日次 | 広告費、PV数 | 体重、摂取カロリー |
| 週次 | コンバージョン率、売上 | 体脂肪率、運動回数 |
| 月次 | 月間売上、ROI | 月間減量幅、計画修正 |
ステップ4: 修正タイミングと方法
修正のトリガー設定:
- 黄信号: 計画から10%乖離した時点
- 赤信号: 計画から20%乖離した時点
修正方法の事前準備:
- パターン別の修正案を複数用意
- 「Plan B」「Plan C」の準備
- 家族・チームとの事前調整
成功パターンの共通点
私が支援してきた成功プロジェクトと、自身のプライベート改善で共通していたのは:
1. 「なぜそうなるか」の論理が明確
失敗パターン: 「頑張れば何とかなる」
成功パターン: 「○○をすれば△△が改善し、結果として□□になる」
2. 早期発見・早期修正の仕組み
失敗パターン: 「結果が出てから考える」
成功パターン: 「途中経過で修正の必要性を判断」
3. 修正案が具体的
失敗パターン: 「もっと頑張る」
成功パターン: 「△△の部分を××に変更する」
まとめ:計画とチェックポイントで人生が変わる
「とりあえず頑張る」から「計画的に進める」への転換は、仕事だけでなく人生全体を大きく変えます。
計画とチェックポイントの最大の価値
仕事においては:
- プロジェクトの成功確率向上
- 問題の早期発見・解決
- チーム全体の方向性統一
プライベートにおいては:
- 目標達成の確実性向上
- 挫折感の軽減
- 家族との共通認識形成
個人的な体験総括
ITコンサルとして学んだ「構造化」「計画」「チェックポイント」の手法を、子育て、家計管理、健康管理に応用して数年。「なんとなく頑張る」から「仕組みで成果を出す」に変わったことで、家族全体の生活の質が向上しました。
特に印象的だったのは、妻から「最近、計画通りに物事が進むようになったね」と言われたこと。仕事の手法をプライベートに持ち込むことで、家族みんなが安心して目標に向かえるようになりました。
これから始める方へ
まずは小さな目標から始めてみてください:
- 目標を構造化:「○○をして△△を改善し、□□を達成」
- 週次チェックポイント設定:毎週末に15分の振り返り時間
- 修正案を3つ準備:うまくいかない時のプランB、C
前回お話しした構造化の手法と合わせて使うことで、仕事もプライベートも確実に成果が出せるようになります。
一緒に計画的な人生を築いていきましょう!


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